「あれを描いた頃、結構、空想画みたいなのにハマってて」
高本くんが話を再開すると、彼の父親は「すみません」という落ち着いた女性の声に反応し、レジの方へ向かった。
「というのも、周りとの違いを、自分で好きになろうとしてて」
「そうか……」
わたしはマスカットティーを口に含んだ。
「それで、実際にないものとか景色なら色をどうしようと完全に自由だと思って、まず手のひらサイズくらいの小人とか、その人の服とか帽子を作る人間の手を描き始めた」
「小人かあ。ふふっ、かわいいもの描くね」
高本くんは照れたように笑った。
「その後、人に飽きたら歯車とか、機械っぽいものを描いた」
「おお、確かにだいぶ変わってる」
「そう。で、そのうちに――」
高本くんの言葉を遮るように、今回も小銭の落ちる音が響いた。
高本くんは苦笑する。
「そのうちに、あの手元の狂った中年男に、『なにか店に飾れるような絵を描いてくれないか』って言われて、ああいう爽やかなのを描くようになって」
「手元の狂った中年男……」
やはり血の繋がりは恐ろしいものだと思い、わたしは苦笑した。
高本くんもわたしに合わせるように小さく笑う。
「店用の絵は出来栄えに合ったお小遣いが貰えたから、喜んであの人の望むものを描いた。ついこの間の俺ではありえない話だけどね。
それで、店用の絵を何種類か描いて開放された頃から、空とか花みたいな、身の回りにあるものを描くようになったんだ」
「へええ。で、その後いきなり絵を見せろとか言い出すようなわたしに出逢い、今の形に――と?」
「そうだね」と笑う高本くんへ、「ていうか君、なんでも描けるんだね」と笑い返す。
「よく、絵が得意な人でも得意な分野と苦手な分野があるみたいなこと言うじゃない?」
「ああ。俺も、特別に苦手意識を持ってないというだけで、描くものによっては毎度微妙な出来になるものもあるよ」
「ああ、そうなんだ。ちなみにどんなものが微妙になるの?」
「一時期よく描いてた歯車とか、機械系。実際にはなにがどうなってるのかまったくわからないし、描きようがないというか」
それでも描いてたというね、と高本くんは自嘲した。



