「それからというもの、このことを知った人は以来みんななにかが変わって。気を使われてるというか、相手がこっちを憐れんでるというか。
唯一なにも変わらなかったのは家族だったなあ。特に母は、『なにも気にしなくていい』みたいなこと言ってた。
本気で悩んだときは、いやなにがわかるのって思ったこともあったけど、本当になんか、馬鹿の一つ覚えみたいな感じで言われ続けたからさ。
そうすると次第に、ああ、別にいいのかな、みたいなふうにも思えてきて。それから美澄さんに逢うまではなにも考えずにいた」
「えっ、わたし?」
「いや、ちょっとだけね。過去のこともあって、最初美澄さんが近づいてきた頃、うわあなんか来た、って、ちょっと思ってた」
「ああ……そう言われてみればなんか、確かに、薄っすらね。嫌われてるのかなって思ったことはなくもなかった」
「嫌いじゃなかったんだけど、全然ね。でもいきなり絵を見せろとか言うし、ああこれバレたらまた変な距離感になるよとか思って」
「それで拒んだんだ」
「そうそう」
小学生かよって感じだよね、と高本くんは自嘲した。
そんなことないよとわたしは首を振る。
「なんかあの頃は、美澄さんと仲よくなっていくのを感じつつ、怖くもあった」
高本くんは言いながら上体を倒した。
「怖い?」
「なんか、『ああ……。こんなとこまできちゃって、いざ知られたらどうするんだよ』みたいな。
とは思いつつ、美澄さんって描いてて楽しいし、みたいな。
むしろ楽しいどころか、自分にとって描くべきものなんじゃないかとか気持ち悪いことも思えるほどで。
それまではずっと、無理矢理なにかを探して描いてたからさ」
わたしはふふっと笑った。
「なんか……嬉しいこと言ってくれるね。わたしも高本くんに描いてもらってる時間、楽しいよ」
高本くんは優しく微笑んだ。
その笑顔が非常に美しいものに見えた。
わたしもこの角度ならば美しく見えるだろうかと考える。
「竹森くんと、あともう一人……。去年同じクラスだった人、誰だっけ」
「翔子?」
「ああそうだ。あの二人といるところなんかを見てると、結構……なんていうか、本音を直球で投げてくる人なのかなっていう印象だったからさ」
「嘘に聞こえても構わないから言うけど、全然そんなことないよ。いやまあ、タケモリに対しては全力で本音ぶん投げ続けるけどね。やつはわたしのライバルだから。やつより下に行ったら人間として終わりだと思ってる」
高本くんはふふっと笑った。
楽しんでいるのか別の意味を孕んでいるのかはわからない。