わたしが冷静さを取り戻したあとは、高本くんから話し出した。
「俺は――自分はね。自分は、幸せだと思う。まあ現時点では治すことも色を見やすくする方法もないけど、これは先天性で、この視界であるのはもうずっとだからさ。
で、すごく稀なタイプらしくて、多くの場合は視力も弱くなってしまうらしいけど、俺は普通で。
いやまあもちろん、ずっとこの視界で生きてきたからこそ厄介なこともあったけどね。
小学校の頃とか、絵に色を塗れとか言われても『はあ?』みたいな。
でもしょうがない、身近にあるものの色を名前で覚えて色塗ったりして。
まあそんな真面目にやってたのもほんの短期間だけどね。結局今みたいな描き方でやってた。
ああそうだ、俺にとってすごい嬉しかったのが、美澄さんに絵を綺麗って言ってもらえたこと。同時に後悔したこともあるけど」
「後悔?」
わたしは言った。
高本くんは静かに頷く。
「美澄さんは、図工や美術で賞を取ったりしなかったのかって言ってくれたでしょう?
だけど俺、当時はなんか、考えというか気分というか、安定してなくて。
行動では鉛筆だけで描いてるのに、内心はちょっとこう……劣等感っていうのかな。みたいなものを感じてたりして。強がってた、というのが正しいのかもしれない。
それで、よく夏休みの宿題だったり図工だったり、学校が考えたんだかもともと地域であったんだかわからないような、なんとか週間、みたいなものだったりで、絵を描かされることはよくあったじゃない?」
「うん」
ああいうのは地獄だった、とは言葉にはしなかった。
「それで、そういうやつの授賞式って全校集会みたいなときに行われたじゃない?
で、すると受賞者は先にその日の日程というか予定というか、この日のこの頃にこうするから、君この頃にはこうしておいて、みたいなことを言われるでしょう?」
「いや、なんの賞も取ったことないから……」
わたしが苦笑を付け加えると、高本くんは「あっ……」と苦笑した。



