「ごめん……」
繰り返したあと、わたしは鼻をすすった。
ちょっと待って、と高本くんの声が聞こえる。
「わたし……全然気が付かなかった」
「えっ……違う、いや、待って、落ち着いて?」
「普通、わかるはずなのに。高本くんは……」
彼はいつも、自分のことを話したがらなかった。
自ら色の話をすることがなかった。
自分よりも忠実にものを描ける人がいると言った。
世の中にはいろいろな人がいると言った。
喫茶 なつしろの話をしたとき、せめてそれくらいは普通がいいと言った。
学校で先生は、黒板に文字を書く際、チョークの色を変える度にそれを生徒へ伝えていた。
黒板に書く文字を声にしたり、書き終えてから読み返したりしていた。
今まで身近に起こっていたことのすべてがこのことを示しているように思える。
「ごめん……」
口に手を当て俯くと、ノートの表紙に小さなしみができた。
ノートを太ももから下ろす。
「ちょっ……ごめんごめん」
高本くんは慌てたようにこちらへ寄ってきた。
わたしのすぐ後ろへ腰を下ろすと、そっと背をさすった。
「あの、美澄さん全然悪くないから。なんかあの、あれだよね、今まで俺が変なこと言ったから。本当、気にしないで。謝るのは俺の方だよ」
「高本くんはなにも……」と首を振ると、彼は小さく苦笑した。



