その瞳に写る頃


「美澄さん」

ふいに聞こえた高本くんの声へ、「びっくりした」と抑える間もなく返す。

そういえば今日は彼が絵を描き始めてから一言も話していなかった。


「なに?」

わたしは言った。

「俺、色がわからないんだ。全部白黒」

高本くんの言葉のあと、時間が止まったかのように静寂が流れた。

「……えっ?」

「いや、いきなりなにを言い出すんだって感じだよね」

高本くんは鉛筆を握った手を動かしながら、いつものように笑った。

「ほら、いつか俺、絵に色を塗らない理由も、色関係で大きな失敗をしたのかってことも、勇気が出たら話すって言ったでしょう? なんかその勇気が昨日の夜に出て」

「ああ、そう……」

「色を塗らない理由も、色関係で失敗――いや失敗というほどのことでもないのかもしれないけど、そういうことがあったのも、色がわからないから」