その瞳に写る頃


わたしは高本くんのノートへ目をやった。

直後に自分のノートへも目をやる。

「そういえば、治らなかったね、わたしたちの色使い」

「ああ……そうだね」

「自分でも理解できないような勉強ノート作っちゃうようなやつだもんさ、わたしの場合絶対進学は無理だよね。やめておいた方が賢明というか」

高本くんは苦笑した。

「高本くんはあれでしょ? そのノート、ごちゃごちゃには見えないでしょ? 字も綺麗だし」

「いや……まあ、そうか。そうだね。ごちゃごちゃには、見えないかな」

「わたしの場合、もうごっちゃんごっちゃんだから。粗めのモザイクかかっちゃってるんですか、みたいな」

高本くんは「癖を治すのは難しいよね」と笑った。

「ああ……ていうか、それよりどうするかなあ、就職」

「美澄さん――人と関わることが好きで、勉強は強いて言うなら文系科目が好き、文章を書くのが好きで、特技は強いて言うなら妄想……といった人だったよね?」

「うん。好きな食べ物は母のコーンクリームコロッケ、愛する飲み物はマスカットティーな一月生まれ」

おお追加情報、と高本くんは笑った。

「えっとじゃあ……作家は? 小説家。なにか考えるのが好きで、文章を書くのも好きってなったら、ちょうどいいんじゃない?

将来の夢も、有名になることと豪邸に住むことなんでしょう? 小説家として成功すれば、二つの夢が同時に叶うんじゃない?」

「ああ、小説家ねえ。悪くないけど、文章力ないしなあ……。作文で賞賛されたりしたのも小学生の頃だし。あの頃から書く文章変わってないよ、たぶん」

「それはもう、慣れだよ。書いていくうちに変わるでしょう」

「そうかなあ?」

そうだよ、と高本くんは優しく落ち着いた声で返した。