その瞳に写る頃


昼休みになると、わたしは口角が上がるのを抑えられないままに高本くんの席へ向かった。

首に腕を回すと、「俺、本当に金持ってないっす……」と高本くんは呟いた。

「大丈夫。人生のうちで一度は有名になってやるっていうのが夢であるわたしでも、よくないことをして有名になろうとは考えないよ」

「それならよかった」という高本くんの声を聞きつつ、わたしは隣のタケモリの席に座った。

「この感じで有名になるってなったら、こう……テレビの中で賢そうな人がさ、無に近い表情で、表情のない声で、

『県立浅葱東高等学校三年の女子生徒が、同級生である男子生徒から金銭を脅し取ったとして、今日、警察に逮捕されました。

女子生徒は取り調べに対し、なにか大きなことをして有名になりたかった、などと供述しているようです』――とかって言う感じでしょう?

これじゃあ名前知られないし。なによりわたし、犯罪は絶対に犯さないって決めてるの」

「ちょっと待って、そんな心に誓わないと法に触れるようなことする恐れがあるの?」

「いやまさか。そういうわけじゃないけどさ」

「それならよかった」と言う高本くんに笑い返すと、「ん」と目の前におばちゃん特製デザートが置かれた。

「ああ、サンキュ。ちょっとタケモリ、わたし高本くんと話があるから、どっか行っといて」

言いながら虫を払うように手を動かすと、タケモリは小さく舌打ちをしてその場を去った。