その瞳に写る頃


「なあ美澄」

廊下を歩いていると、タケモリが隣についてきた。

「なに? タケモリあんた、どれだけわたしのこと好きなわけ?」

「は? いやお前馬鹿かよ。つうか馬鹿だな。俺がお前を好きなわけねえだろ?」

「ならば、なにゆえあなたはわたしにまとわりつくのですか?」

「お前が俺を好きだからだろ」

「あんた、本当にどうしようもないほどの馬鹿なのね。

わたくし美澄さくらは、去年、

髪の毛を金に染髪することを、先生に咎められるのを恐れて断念したような、

ピアスホールを空けようとしたものの、先生に咎められること、

加えて、ホールを空ける際に伴う痛みを恐れて断念したような、そんな小心な男に惚れたりしません」

「貴様なんでそんなにこの俺様に詳しいんだよ?」

「あんたが友達と一緒にでかい声で話してたからでしょう? わたしに限らず、結構な数の人が知っているはずだけど」

「いいや、俺様はだな。神から授かりしこの己の肉体に穴をぶち空けるなんていう行為が愚かしいものに感じたまでだ。染髪も同様だ。ただし友人には――」

「はいはい、わかりましたわかりました」

わたしはタケモリの言葉を遮った。

「あなたが、見栄を張ってしまうほどわたしを好きなのはよくわかった。あなたが異性を見る目がないこともよくわかった」

「はあ?」

「異性を見る目がある人はわたしなんかに恋したりしない。わたしのことは諦めて、四組の翔子ちゃんにでも標的を変更することね。さもないと、貴様は友人に女を見る目がないと嘲笑されてしまう」

「あのな、美澄。俺は――」

「ただし。これでまるっきりわたしを想うことをやめろ、なんていうのはあまりに酷だから……」

少しためたあと、踊り場で足を止め、静かに「手を出して」と言うと、タケモリは素直に従った。

わたしは昼休みのために仕込んでおいた百二十円をその手に握らせる。

「……えっ、なんだ、帰り道のジュース代か?」

「今日も……いや、これからも。昼休みに、わたしのデザートを買ってきてちょうだい。おばちゃん特製、一日二十食限定の、幻のデザートを」