食事と歯磨き、洗顔を済ませると、わたしはすぐに玄関を開けた。
ざあざあという音とばしゃばしゃという音が同時に聞こえた。
「……豪雨じゃねえか」
今日雨降るとか聞いてないしと言いながら傘を取ると、「昨日から言ってたでしょう」と微かに母の声が聞こえた。
「せっかくおめでたい目覚めだったのに……。いやまあ、いつかのように早起きしたのに二度寝して結局遅刻とかいう事態よりはましだけど」
わたしは玄関のドアを閉め、傘を開きながら言った。
水色地に薄紅色の桜が描かれた小洒落た傘は、中学校二年生の頃に、一目惚れし、奮発して購入したものだ。
校門を通り、何気なく足元から前方へ視線を移すと、少し濃い色と縞模様が成された灰色の傘を見つけた。
白地に花火のような絵が描かれた傘を除き、周りにも紺色の無地や黒地に白でブランドのマークが入ったものがあるが、わたしの中のなにかが反応を示したのはその灰色の傘だけだった。
高本くんはわたしの中で、すっかり特別な存在となっていた。
彼へは、友達でありながら尊敬や憧れといった感情を抱いている。



