その瞳に写る頃


台所からの匂いの正体は昨夜のおかずだった。

ミートソースとピザ用チーズで味付けした茹でたマカロニをたねにしたコロッケだ。

いつか必要以上のマカロニを茹でてしまった際、そのマカロニを救うため、母によって思いつきのように開発された料理である。

それは思いの外味がよく、今ではそのためにマカロニとミートソース、ピザ用チーズを購入するほどだ。


テレビの向こう側では、一つ一つもトータルもかわいらしい女性が洒落た空間にいた。

木と黒を基調とした薄暗いその空間は喫茶店のようだった。

何気なく目をやった画面の右上には、「喫茶 なつしろ」の文字が確認できた。

どきりとした。頭の中で見えた文字を繰り返す。なつしろ――。

この番組を放送しているテレビ局がある地区に、数日前、喫茶 なつしろが開店したらしく、彼女がそこを訪れているようだ。


ダイニングテーブルに皿が置かれる音が聞こえた。

「ああ、喫茶 なつしろってあんな内装なんだね。あのお店あちこちで見かけるけど、どうも入る勇気が出ないんだよねえ……」

母は言った。

「ああ、うん……。喫茶 なつしろって、すごいところなんだね。ああいう人たちが目をつけるって……」

「前に、どんな感じのお店なんだろうと思って調べてみたんだけど、すごい美味しいらしいよ。コーヒーも、軽食も」

席に着いた女性を中心に映す画面の左上に、天井に吊るされた気球の飾りが映っている。

あの女性はその飾りの意味を知らないのだろうと思うと、少し優越感のようなものを感じられた。