その瞳に写る頃


翌朝、携帯のアラームより早く目が覚めた。

「……確かに、おめでたいかも」

わたしは自らの言葉を鼻で笑い、布団と別れた。

消臭スプレーを吹き掛けた後、着替えを始める。


リビングには、台所から食欲を掻き立てる匂いが流れてきていた。

電子レンジが軽やかな音を響かせる。

水を求めて台所へ入ると、母は「あらら、随分早いじゃん」と笑った。

「わたしくらいになってくると、目覚めはいつもこれくらいの時間さ」

アニメキャラクターの決め台詞のように返し、わたしはグラスに水道水を注いだ。

「そうだね。わたし、さくらを起こしたことなんて一度もないもの」

あははは、と母は下手くそな笑いを続けた。

わたしはグラスの水を飲み干した。

「水道水、よくないよ」

「いやいや。前にも言ったけど、水道水ほど安全な水はないんだよ。なぜか。それは――」

しっかり消毒されているから――母はわたしの言葉から続きを奪った。

「その消毒がよくないんだってば。まあさくらがいいならいいけども」

「ここは安全な国さ。雨水だって飲んでも問題ないでしょう」

「いや、雨水はさすがに最近危ないんじゃない?」

「いや大丈夫だって。人間って、意外と丈夫な生き物なんだぜ。あっ……」

一つの考えがわたしの言葉を止めた。

「でも……雨水を飲むことはできないか。飲めるほど上向いて口開けてられないから」

いやいや、と母は笑った。

「雨水を飲むってことは、バケツに溜めたり、コップを外に置いたりしておけばいくらでも可能でしょう」

「ああそうか」

寝起きで頭働いてないじゃん、と笑う母へ、うるさいと返した。