その瞳に写る頃


ジャージには、向かって右側の穴の空いた膝部分と、関係のない向かって左側の太もも辺りに、白いハート型の布が貼られていた。

「えっと……。裏から布を貼っ付ける――布を貼る感じになるって言ってたよね?」

「かわいかろうと思ってよ?」

「まあ、ハートはかわいいよ? 形も左右対称で綺麗だし。だけどね? 赤っぽい色に白のハートって。ただのおめでたいやつじゃん」

「いいじゃないか、これは部屋着でありながら寝間着でもあるんだろう? さくらの目覚めを、毎度このジャージが祝ってくれるんだ。目が覚めるということは、おめでたいことなんだよ」

言ったあと、父はふんと笑った。

「うるさい、なに『俺いいこと言ったんじゃね?』的なオーラむんむんに放ってんの」

「おやおや。そんなに気に入らなかったかい?」

「まあ別にこのジャージで出掛けることもないからいいけどさあ……」

父からジャージを受け取ると、台所から出てきた母が「あら」と声を発した。

「かわいいじゃない、ハート」

「だろう? 裏側から布を貼っ付けるよりお洒落だろうと思ってね」

「お父さんやるじゃない」

わたしは一度深呼吸した。

「どうもありがとう、お父様」

ねっとりした口調で並べ、紺色のハーフパンツの上からハートの付いたジャージを履いた。