その瞳に写る頃


「おう、さくら。お待たせ。ところで、頼みってなんだい?」

黄色地に青い文字で「猫。」と書かれたティーシャツに青いスウェットパンツという部屋着に着替えてきた父が、向かいの席に座りながら言った。

もしかしたらわたしの服のセンスの悪さは父親譲りかもしれないと、今になって思った。

「あのね、お父さん。わたしの大事な大事な部屋着兼寝間着であるこの中学生時代からお世話になってるジャージのズボンの膝にね、穴が空いちゃったの」

わたしは椅子に足を上げ、膝の部分を指で示しながら言った。

「おやおや。それは大変だ」

「お父さん、お裁縫お得意でしょう? わたしの相棒の怪我を治療してあげてほしいの」

「なるほど……。裏から布を貼っ付ける形になるけど、それで構わないかい?」

「うん。この際方法はなんでもいい。ただ、この子がまた元気になってくれれば……」

なにもその中学校のジャージにこだわらなくても新しく買えばいいのに、と台所から母の声が聞こえた気がした。

冷蔵庫の扉を会話の間開けておくことさえ許さない人がよく言えたものだと思った。

「よし、わかった。晩ご飯を食べたら、すぐに治療を始めよう」

「本当? ありがとう、お父さん」

「さくらのためなら裁縫なんて一日中飲まず食わずでやってもいいくらいだ」

「うふふ、愛していますわ、お父様」

嘘くさい台詞にウインクを付け加えると、父は嬉しそうに笑った。