「やっぱり、本人はそれをコンプレックスに思ってるとかじゃないの?」
「誰もが認めるほど綺麗な顔立ちなのに?」
うん、と母は頷いた。
「ほら、いつだったかな。個性の話をしたでしょう? そこでわたし、ハーフの人なんかで、髪の毛や肌の色が住んでいる国に多い色じゃなかった場合、
それを悩むのではなく自慢できるのなら、それは個性と言っていいんじゃないか、みたいなこと言ったじゃない?」
「ああ、そういえば」
わたしは大きく頷いた。
「その反対だよ。例えば髪の毛の色が地で白に近い色だとしたら、日本ではかなり珍しいじゃない? それを、綺麗だと思う人はいっぱいいると思う。
だけど、本人がその白に近い色の髪の毛をそう感じていなかったら、周りと違うふうに捉えていても不思議はないんじゃないかな。ここで生活する以上、黒や茶色の髪の毛がよかった、こんな色、綺麗でもなんでもない、みたいな」
「ああ……なるほどねえ」
「なにかあったの?」
「いやあのね、高本くん、すごく絵がうまいじゃない?」
「ああ、とっても。さくらと同じ、人間だとは思えないほど」
一言すごく余計、とわたしは先に言った。
「で、あんなにもうまいのに、高本くん、それを全然自覚してないの。少し前までは、恥ずかしくて見せられないとか言ってたほど」
「ふうん……。じゃあもしかしたら、前に絵の描き方でなにか言われたりしたのかもしれないね」
「ああ……。いやでもあれほどの画力の持ち主に、絵の描き方なんて小さなことを口出しする人いるかなあ? そもそも絵なんて芸術でしょ? 表現の仕方は人それぞれなんじゃないのかな?」
「うーん。まあ、世の中いろいろな人がいるからさ」
それよりご飯冷めちゃうよ、と母は食事の再開を促した。
口に入れた一口分のたまごはんはすでに冷めていた。
「どうした?」と心配げな顔をする母に、「冷めてる」と返す。



