中学校の指定の服、という感覚ももはや完全に失せたジャージに着替え、リビングに戻った。

ダイニングテーブルの角に携帯を置き、台所へ向かう。

「おっ、美味しそうじゃん」

わたしは冷蔵庫を開け、すでに皿に盛られたたまごはんを見て言った。

「いくよ」

せーの、と母と声を合わせた。

フライパンの上で円形のたまごかけごはんが返る。

いい色に焼けた面が姿を現す。

「超綺麗。さすがはわたし」

「ていうかお母さん、大変なんだけど」

「なにが? ていうか喋るなら冷蔵庫閉めて」

はいはい、とわたしは冷蔵庫の扉を閉めた。

「ほら、ここ」

わたしがジャージの膝部分を指で示すと、母はフライ返しを持ったままそこへ顔を近づけた。

「穴空いちゃったの」

「学校のジャージって破れるの? さくら、どれだけ寝相悪いのよ」

「わたしほど寝相のいい女の子はいないよ。それよりどうしよう、これ」

「縫えばいいじゃない。それか、いうほど大きな穴でもないんだし、放っておくか」

「縫うのも放っておくのも嫌ってなったら?」

「それは知らないよ。どちらかを頑張れとしか言えないね」

「ええ……。お母さん縫ってくれないの?」

「嫌だよ、指怪我しちゃうもん」

「ええ……。お父さんやってくれるかな?」

「ああ、やってくれるんじゃかい? さっき連絡があって、明日は普通に帰れそうだとのことだったし、明日言ってみたら?」

「ああ、よかった。そうするよ」