「はい……おつかれさま」

「すごい、もう終わったの?」

思わず確認した形態のロック画面は、十八時前を表した。

描き始めてからおよそ二時間だ。


わたしは携帯のカメラアプリを起動させながら、高本くんの元へ向かった。

「こんな……」

高本くんはスケッチブックを見せてくれた。

「すごいねえ、本当に」

「やっぱり、休みの日に描くのとは雰囲気変わっちゃうけど」

「でもわたしはこの感じも好きだよ。絵っぽい感じ。いつも写真みたいでちょっとびっくりするから」

では本日も記念に、とわたしは携帯のシャッターを切った。

「すごいよなあ、本当に」

ちょっと失礼、と高本くんの手からスケッチブックを借りた。

「なんで高本くんが自分の絵に自信を持たないのか、本当にわからない」

「もっとリアルに描ける人なんて、いくらでもいるんだよ」

「そうなの? その言葉で一体全体何人の敵ができてるか知らないでしょ」

わたしは笑いながら言った。

「わたしほど――というと少ないかもしれないけど、絵が下手な人だっていくらでもいるんだよ?」

「俺は絵がうまいわけじゃない。見えてるものをそのまま描いてるだけだ」

「目に見えるものをそのまま描けるのが絵がうまい人の特徴なんだよ。たぶん」

わたしはふうと息を吐き、自分と高本くんの間にスケッチブックを置いた。

「わたしくらいになってくると、あの桜の木。あれをもう、たぶんすっごい短く描いちゃう。

で、上の花の方をすっごい大きく描いちゃって、もはやなんの木かわからない、みたいな。

これ見て木とわかるだけでもすごくねえか、くらいな。これブロッコリーと毒きのこのハーフじゃね? みたいな」

高本くんは静かに上体を倒し、はあと短く息を吐いた。

「俺みたいなんでも、絵描きを仕事にできるかな」

「むしろ君みたいなんじゃなきゃ、絵描きなんか仕事にできないよ」

高本くんの静かな声に、わたしは苦笑した。