学校からの高本家は、毎度休日よりも落ち着いた場所に感じる。

三年に進級してから、平日も描いてもらうようになった。

今日は桜の木の下に立つという楽な体勢だった。

高本家にある桜は八重桜という種類らしく、四月中旬の今、広い中庭を美しく彩っている。


わたしは高本くんに描かれている時間が好きだった。

冷たい印象の奥に優しさを感じさせる彼の目に、いつもとは少し違うなにかを感じられる気がするからだ。

楽しそうというのも、反対の悲しそうというのも当てはまらないその目が、わたしは好きだった。


「高本くんってさ、花はどんなのが好きなの?」

「花?……チューリップ、かな」

「ああ、チューリップねえ。わたしも好き。風葉公園、すごい綺麗だったよね。あの日、チューリップの魅力再確認しちゃったもん」

「あそこ、チューリップで有名だからね。テレビでも紹介されてたり」

「そうなんだ。全然知らなかったなあ。でもなんか、そんなすごい公園が徒歩二時間の場所にあるって嬉しい」

「徒歩二時間……結構掛かってるけどね」

「いやいや、車で二時間よりいいでしょう」

まあね、と高本くんは苦笑した。

「高本くんはさ、チューリップ、何色が好き? わたしはピンクが好きなんだあ。赤とか黄色も綺麗だけどね」

高本くんは一瞬手を止め、「何色でも好きだよ」と答えた。