顎の下辺りに冷たさを感じたのは、放課後、高本くんと賑やかな昇降口にいるときだった。
はっと息を吸うと、高本くんがこちらを向いた。
「ああ……。た、高本くん……あなたは逃げて。早く、彼女の元へ」
高本くんは頭の上に疑問符を浮かべた。
わたしの首に指を当てるショウゾウを一瞥すると、状況を察したか納得したように大きく頷いた。
途端に俯き、どことなく苦しげな雰囲気を感じさせる暗い表情を作る。
「……すまない、美澄さん……」
囁くように言ったあと、同じように「ありがとう」と続け、彼は昇降口を出ていった。
「……女」
ショウゾウの声は低かった。
「えっ、女?」
「お前男なのか」
「いや、女だが……」
「あの男は何者だ。どういう関係だ」
「……別に、大した仲じゃない」
「ならば言えるはずだろう」
「……ただの……ただの友達だ」
「そうか」
ショウゾウは一度深呼吸した。
「わたしは知らなかった……」
言いながら、わたしの首に触れている指を少し強く押し当てる。
わたしは反射的に顔を上に向けた。
「やつが……あんなにもノリのいい男だったということを」
「あ、ああ……。よく二人で話をするが、しりとりに持っていかれるよ」
「話をするのか。あの、関わらない方がいいやつオーラがむくむくと放たれている、あの男と……」
ショウゾウは言いながら、指をほんの少し横に動かした。
「ああ……。悪いか」
「いや、汝が誰と言葉を交わそうと、我はそれを咎めることなどできない……。それにあれだけノリがいいのなら、あの男は悪い人間でもないのだろう……」
「……な、なあ。もういいだろう、通行人の視線が痛い。それに君だって、こんな場面を警察なんかに見られてはまずいのではないか? いや、その前に通行人の誰かが通報しているかもしれないが」
ショウゾウはふっと笑った。
「それもそうだな」と腕を解く。
わたしはすぐに体を百八十度回転させた。



