だが、いつまで経っても清都の攻撃は無かった。それどころか、清都が馬乗りしてきた圧迫感もスっと取り除けた。

依奈は閉じていた目をゆっくり開け、視界を開けると、そこには呆然として立っている清都の姿だった。
そして依奈は清都は呆然としているのではなく、何かに驚きを隠せないという感じだと理解した。

依奈は身体に染み渡る痛みを片手で抑えながら、うつ伏せになってその方向へ目をやった。
だが、そこには扉が開いた真っ暗なタンスだけだった。視界は下半分しか見えなかったが、依奈は助けが来たのかと心の端ではないかと思っていたので、フッと鼻で笑った。


ピチャ....ピチャ...


その音。食器らしきものが落ちた派手な音すら聞き流していた依奈も、その音で意識はすぐに戻った。
清都が驚愕する程の出来事、そしてあの水音、依奈にはもう予想が出来ていた。い

ゆっくりと目線を上げ、タンスの残り半分の上の方へ向けると、そこにはあの目玉があった。

大きな黒目はプルプルと震わし、あの血の涙はタンス内に落ち、それは段々タンスから染み渡って床へ流れてくる。

タンスの近場にいた来希も口を開けながら、後ずさりしていた。


「は?....な、なんだコイツ....なんでここに人がいるんだ?」