「章ちゃんは本当に優しい人だったの。色んなことに気を使って....自分は悪くないのに自分を責めて....他人の事を本当に想える人なの。
....章ちゃんは...あんな人が怖がるような事しない。そんな度胸もないだろうしね。」
「そっか....確かに章太君だったら、もっと早くに出てきてもおかしくないのにね。
もしかしたら、時期が合っただけで、たまたまそこら辺で拾ってきた悪霊なんじゃないのかな?」
美苗の意見は一見適当だったが、的を射ていた。章太が死んでから昨夜はほぼ二日経っていたし、重信は依奈へ真っ先に行く理由が見当たらない。
依奈はもう少し納得出来る意見を期待したが、今考え付くのはこれが最善だとも感じていた。
「よし!じゃあその幽霊はお守りとかで対処するとして....折角来たんだから歌お!!」
「....美苗...カラオケに来たのは私と話すとか、話がある人との場作りとかじゃなくて....」
「うん!楽しく歌うため!これは依奈の為でもあるんだよ?章太の事もあって心がボロボロだと思って、依奈はもっとボロボロになるのを望んでいるだろうけど、私はそうは思わない。
依奈にはもっと元気でいて欲しいから、ここは何もかも忘れて楽しく歌おうよ!!」
美苗はもう片方の手でマイクを拾うと、依奈に押し付けた。依奈は目を丸くしているが、次第に硬直していた顔も緩んで微笑んだ。



