その言葉を聞いて周りにいた生徒達はザワつくが、どこかホッとしていた。同じクラスの生徒が騒ぎを起こし、暴力をふるい、女子生徒が涙を流しているのにも関わらず、安堵の息が漏れている。

他の生徒にとって章太の死はそれ程重要ではなかった。次のターゲットが自分になるんじゃないかということがよっぽど大きかった。
だから、依奈がターゲットになってくれるということで、自分が犠牲にならなくて済む"安全"を身にしみて実感していた。

だが、佐々木は違った。他の生徒と同じ反応ではあるが、自分の名前が出かかっていて、ビクビク震えている。


依奈に味方はいなかった。他の生徒には見捨てられ、イジメの主犯には標的にされる。先生が助けてくれる線は圧倒的に低い。
孤独、それだけが依奈を包んでいた。そう依奈は思っていた。


清都は首を左右にふって骨の音を鳴らすと、カッ!っと目を見開く。


「なんなら今やるか?腹に大きなアザを残してやろうか?あ?」


清都が倒れている依奈に近寄り、大きく右足を振り上げると、その間に一人の生徒が駆け込んだ。その生徒は依奈を包むようにして守っていた。


「清都君!もうやめてよ。この子もいきなりのことで興奮してただけだから。二日で身内二人も亡くなったんだから仕方ないんじゃない?」