今までは殺意溢れてたから、憑依なんてさせたら、他の人に危害を加えるし私自身が危ない。
だけど、今の章太君ならそれが出来そう。」


アニメやドラマでしか見たことの無い憑依。依奈はゴクリと唾を飲み込み、緊張で胸が裂けそうだった。


「依奈、どう?会話出来る?」


静華の問いに依奈は額に汗をかきながらゆっくりと縦に振った。今までの人生で一番頭が重く感じていた。


「分かった。....じゃあ、早速やってみるわよ。私がこれからお経を何分か唱えると、私は倒れちゃうかもしれないけど、完全に乗り移れるまで絶対に邪魔しないでね。」


静華は足を組み直し、目を瞑ってブツブツとお経を唱え始めた。依奈は正座のまま黙って見ていた。バクンバクンと心臓が爆発しそうな鼓動をしつつ、依奈は期待と緊張で包まれていく。
まるで受験終了後の結果発表のように、依奈は期待しつつも心臓の痛さのせいで逃げ出したくなってしまう。


そんな自分の心と戦い続けながら待つこと五分。静華のお経がピタリと止んだ。一瞬声をかけそうになるも、依奈は両手で声を殺した。

静華は目を瞑り口をポカーンと空けながら、寝落ちしたかのように頭が下がっていく。
そして頭が床へ着きそうになった時、頭はピタリと静止し、逆に上へ上がっていく。
瞑っていた目も徐々に開いて、空いていた口も閉じた。