「で?私になん用?...勝手に家に入ってくるなんて非常識な子だこと...」


依奈の記憶の中では善子はこんなことを言う人ではなかった為、困惑状態だった。


「す、すいません...章ちゃんのことで...」


善子はギリッと歯を食いしばり、すぐ下に落ちていたペンを依奈に投げ付けた。ペンは依奈の顔目掛けて投げられ、依奈は咄嗟に手で防いだ。


「うるさい!あの子の名前を呼ぶんじゃない!!」


豹変した善子に依奈は驚きを隠せなかった。いつもおしとやかで、凛としていて、息子想いのいい母親というイメージは一気に崩れ去った。
善子はそのまま、自分の髪の毛をクシャッと強く握りしめ、ボロボロと涙を流した。

そんな変わり果てた善子に依奈は様子を伺いながら言葉を投げた。


「善子さん...大丈夫ですか?」


そう聞くと、善子は笑いが零れた。壊れたおもちゃのように、泣き笑いをしていた。


「ふふふ...大丈夫なわけないでしょ?たった一人の息子を失ったのよ?あなたにはこの気持ち...分からないでしょうけど...」


「わ、分かります。章ちゃんとはいつも一緒で....」


善子はいきなり立ち上がり、依奈に向かって鋭い眼光を向けた。依奈はこの時、地雷を踏んでしまったと後悔した。