依奈は辛うじて享吾の目線の先を見てみると、章太がポツンと無表情のまま立っていた。
享吾は目の前に現れた章太に動揺するかと思いきや、不敵な笑みを浮かべると、依奈の髪をもう一度引っ張って立たせ、自分の方へ抱き寄せてポケットからカッターを取り出した。
銀色に光るその刃が首元へ向けられ、少し切られて血がゆっくりと外へ流れていた。
「はははっ...まさかとは思ってたけどなぁ〜?幽霊とか信じなかったが、くくく....なるほどなぁ章太ぁ〜。復讐か〜。
ゴミが...ゴミのすることは単純でわかりやすいなぁ〜?」
享吾はヘラヘラ笑いながら章太を煽った。それに対して章太は何も反応は見せないものの、ゆっくりと足を進めてきた。
「おい動くなよ章太ぁ!?それ以上近付いてみろ!千澤ちゃんの喉元から赤いジュースぶちまけんぞ?あ、身体の一部がどこかでもピクリと動いたらアウトだからな?完全に止まれよォ〜?章太ぁ〜。」
享吾はさらにカッターを押し付け、依奈は痛みに顔を歪ませた。
殴られたダメージのせいか、意識がぼんやりとでしか保てていない依奈は、不覚にも鼻で笑った。
「あんた....バッカじゃないの?...章ちゃんは私も恨んでるのに....人質になるわけないじゃん...ば〜か....」
依奈は小馬鹿にするような態度をとったが、享吾は怒る様子はなかった。むしろニヤニヤと口角をどんどん上げていた。



