享吾は足を忍ばせた。ゆっくりと、気付かないように父親の背後に迫ってきた。
何も知らずひたすら麺を食べる父親に対して、享吾は買ってもらった鉄バットを大きく振り上げた。

もし失敗したらひどい仕打ちが待っている、そんな事は享吾の頭にはなく、ただ本能のままに頭目がけて振り下ろした。


結果は遊びに家に訪問してきた竜が享吾を止めて幕を閉じた。銀色だったバットは一部赤く染め、身体を丸めながら悶絶する父親。
辺りは食器が散乱し、めちゃくちゃな状態だった。

それからは享吾は祖母の家に暮らし、父親は暴力がバレて刑務所行きになった。

それからというもの、享吾をいじめてきたガキ大将含めたいじめっ子は、享吾を避けるようになり、逆に話しかけるとビクビクしていた。
あんなに強気だった父親も、刑務所から出てきても一切連絡してくることは無かった。


享吾は確信した。この世は結局は弱肉強食。暴力を使って相手を叩きのめせる強者と、本ばかりを読んでただ殴られるだけの弱者でハッキリと別れているのだと。

享吾の態度は急変し、元々の性格は胸の奥底へと封印した。自分の部屋にあった本、母親との思い出詰まった本すらも、全て処分をした。


享吾にとって、イジメとは強者の最高の特権と感じていた。
自分が弱い相手を叩くことにより、まるでいつかの弱い自分を更に突き放すかのようになるから、享吾は気分が良かった。