一つは竜の存在。竜がいれば父親やガキ大将に殴られることは無かった。打ち明ける勇気はなかったが、竜との時間はまるで楽園だった。

二つ目は本の存在。辛い時も本の中の物語に享吾は夢中になり、何もかも忘れて純粋に物語を楽しめる。自分だけのスペースにいるかのような感覚だった。
だが、本の楽しさは次第に薄れていった。字が読めず、内容が次第に頭に入ってこなくなっていたのだ。本人は理由も分からず、ただ慌てていた。病気にかかってしまったのではないかと不安になった。


ある日、クラスのガキ大将がいつも通りにいじめてきた。教室で本を頑張って読んでる最中、ガキ大将は本を取り上げた。


「あっ!か、返してよ!」


「嫌に決まってんだろ?弱享吾。おい、抑えといて!」


そう呼び掛けると、仲間の二人が享吾を捕まえた。非力な享吾には二人の手を解くのは無理だった。
ガキ大将は本を表紙を見るとフッと鼻で笑った。


「なんだよこれ?"幸せになれる方法"?お前ばっかじゃないの?」


「な、何が悪いの!僕がその本を読んでて何がダメなの!」


「こんな本を読んでるからいつまでよわよわなんだよ!こんな本なんて...いらな〜い!」


ガキ大将は本を開き、端と端を持って思いっきり横へ引っ張った。