京吾は依奈の髪をいじっていた手を顔の方へ近付けた。顎から頬の線をなぞるように触り、依奈はゾクゾクと震え、蛇に睨まれた蛙のように身体が硬直する。


「お前とお前の家族...もしかしたら親戚の人までどうなるか俺も想像出来ねぇが...まぁ、今までの日常とは逆転するだろうな〜。死にはしないだろうが、二度と表を堂々と歩くことは出来んなぁ。
親も職を失うことは確実だし...あれ?結局餓死するから死ぬか。うん、死ぬな。

まぁお前もそうなりたくなかったら、黙ってろ。目の前であのゴミが蹴られようが黙って見てろ。ゴミの事を聞かれても不利な事を言うな。分かったな?なぁ、千澤 依奈ちゃん。」


そう言うと京吾は依奈から離れ、待っていた清都と来希と話しながら帰って行った。
依奈は限界まで達していた緊迫状態から解放され、力なく座り込んだ。
そして同時に涙が溢れでてきた。先程まで泣きに泣いたのに、更に多く涙を流す。


「....ごめん章ちゃん...私...逆らえない...ごめん...ごめん...ごめんなさいぃ...」


依奈は鞄を胸元でギュッと抑えながら、大粒の涙を零し、聞こえるはずない章太に謝った。章太を見殺しにした罪悪感、京吾の恐怖、依奈の心は完膚なきまでにボロボロにされた。