「裕也!おまたせ!」

資料室の中に入り、彼氏の裕也を見つけた私は、

彼にそう言った。

「遅い。どんだけ待たせたと

思ってるんだよ」

目が合った裕也は、

ものすごく不機嫌そうな顔をしていた。

「ごめんごめん。

委員会の仕事が終わったと思ったら、

担任から頼まれちゃって」

顔の前で、手を合わせながら

謝罪をした。

すると、意外にも、

裕也は気にしていないようで、

「人気者も暇じゃないな」

とぶっきらぼうに言った。

「そうだね。あ、裕也。

話があるって言ってたけど、何の話?」

私がそう言うと、裕也は照れた顔を見せた。

一瞬だけだったけど。

「お前、誕生日だろ。だから、

プレゼントを贈ろうと思ったんだよ」

「プレ、ゼント?私に?」

去年の誕生日には、何もしてくれなかった裕也が

今年の誕生日にプレゼントをくれるなんて、

思わなかった。

「あぁ。でも、今日はハロウィンでもあるんだぞ?」

「え?」

「だから、こういうことだよ」

「きゃっ!」

当然、裕也に押し倒されてしまう。

目の前には、口が触れそうなくらいに近い裕也の顔。

心臓がもたない。

「Trick or Treat」

「とりっくおわとりーと?」

英語が苦手な私には分からなかった。

「お菓子をくれなきゃイタズラするぞ」

「そ、そんなこと言われても、

お菓子なんて持ってないよ?」

「持ってるじゃんか。とびきり甘いの」

「なに……んっ」

それは、意識が痺れるほどに甘いものでした。



今日は、十月三十一日。

ハロウィン。そして、私の誕生日。

私へのプレゼントはクチヅケ。


*〜end〜*