「ああ、ありがとうございます。そのままでいいです」

「ブラックなんですね」

「眠気覚ましなんで」

アイスコーヒーを渡す前に、彼女はあなたのドリンクホルダーに挿さっているペットボトルを指差し、“それこっちにちょーだい”という指をパクパクさせるサインを出しました。

あなたは素直にミネラルウォーターのペットボトルを彼女に渡し、それと入れ違いでアイスコーヒーのカップを受け取ると、一口飲んでからドリンクホルダーへ挿します。

彼女はハンカチで水滴を吹いた後、あなたのミネラルウォーターを真ん中のドリンクホルダーに置きました。
あなたの手に水滴がついたので、彼女はハンドバッグの中にあったウェットシートを一枚出して、お手拭きとしてあなたに手渡します。

「ああ、ありがとうございます」

「もう食べます?」

彼女は次に袋の中に手を入れました。
あなたが「はい」と返事をすると、彼女はその中からひとつ選びとって包み紙を半分向いてから、むき出しの部分に触れないよう慎重にあなたに手渡し、引き換えに手を拭いたウェットシートを受け取ったのです。

「すみません」

「碓氷さんの美味しそうですね」

彼女は自分の分も袋から出して包み紙をむくと、「いただきます」と呟いてから先に一口食べました。

「……ん!」

「……美味しい?」

「美味しいです!」

あなたは彼女に対して、たまに敬語が崩れるようになりました。彼女と同級生だという話をしたから、無意識に崩れるのでしょう。