「碓氷と申します。……交通事故です。……はい。ついさっき。追突で、ええ、今のところ大丈夫です。場所は……」

あなたは隣に目をやると、彼女はすでに地図アプリで五百メートル先にある小さな商店の住所を出し、画面を向けています。
見えづらいのか、あなたは彼女の手ごと画面を引き寄せて、住所を読み上げました。

「……そこから五百メートル南です。……はい、三人ですね。二台道路脇に停めてます。……二、三十分?……はあ、分かりました。……はい、碓氷彰(うすいあきら)です。番号は……」

あなたが電話番号と自宅住所を伝えている間、彼女はそわそわとしていました。あなたのフルネームですら今初めて知ったのです。
しばらくしてあなたが電話を切ると、彼女は「どうでした?」とすぐに聞きました。

「警察がここへ来ます。二、三十分かかると言っていました。それまで動かないように、と」

「二、三十分ですか」

「……すみません。同乗者も全員そのままで、と。藍川さんだけ駅にでも送り届けられれば良かったんですが……」

「え、そんな!私も待ちますよ」

あなたが悪いわけではないのですが、予期せぬトラブルに彼女を巻き込んだ形となりました。この車に同乗したばかりに、です。
しかし、あなたは悪くない。そう思っては、軽自動車の女性に苛立ちばかりが募るのでしょう。

「じゃあ、俺は向こうの人と話してきます」

あなたは親指で後ろを指しました。すると彼女もシートベルトを外して、車から降ります。

「私も行きます」

「……そうですか。じゃあ、行きましょう」

彼女はおそらく、あなたと女性がふたりで話すと、相手が余計に怯えてしまうのではないかと心配だったのでしょう。
あなたの顔、さっきから怖いですから。