耳に何も届かなくなった
世間が真っ白になった

ただ、「誠」と呼ばれる声に酷く乱された

耳障りの悪い声は嫌でも覚えている


情けない話、優のこと考える余裕がなかった
身体に触れられた感触に硬直してしまったんだ


吐き気じゃなくて、恐怖だったんだ


5年間もこの女に俺は苦しめられた

自分が思っている以上に俺の心も身体も限界だった


優が立ち去ったことがわかっても俺は動くことも声を発することも出来なかった
それに気を良くした女が「ホテル行く?」と


汚い
気持ち悪い


触れられている手を払い除けて「行こう」そう言った


近くのホテルに入った
名前も何も知らない


ドアを開け部屋に入った瞬間、女が抱き付いてきた
頭が沸騰するかと思った


殴りそうになった腕を押さえたのは優の笑顔だ
俺がこの女を殴れば優が悲しむ

巻き付いた女の腕を強引に引き剥がしてベッドに投げつけた
女はこれからの行為を想像しているのか、ただの醜い女だった


「俺に触るな、気持ち悪い
そこから動くんじゃねぇ」

「誠?」

「その口で俺を呼ぶな!吐き気がする!」

「どうして?私のこと愛してくれてたでしょ?
結婚だって」


あぁ、結婚な
ほんと、バカな男だよ俺は

今ならわかる
あの時この女に感じていた想いと優への想いは全然ちがう

わかってなかったんだ

この女に1つだけ感謝するとしたら、この女と結婚しなくて良かったことだ