「お前、風呂ながすぎねー?」



お風呂から上がると、ソファーに座っていた匠が怪訝な顔になる。



「上がったから入っていいよ。あたしはもう寝るから」


「おい、俺の話無視かよ」


「おやすみ」



ことごとく、無視するあたしに眉間のシワが増えていく匠だったけど、構わずにそのまま部屋に入った。



「なんなんだよ、まぁ、いいや。おやすみ」



イライラを隠せない様子の声がドア越しに聞こえるけど、それには返事をしないでベッドにダイブする。



「気づいて欲しい.......」



でも、気づかれて気まずくなるのも怖い。
だから、気持ちの置き場がわからない。

匠に忘れられない人がいる以上、匠に気持ちを伝えるなんてことはできない。
このまま匠が一緒にいてくれる立場を変えたくなんてない。

だから、このまま。
このまま匠のそばにいられるならその道を選びたい。



「どうしたらいいんだろう.......」



この気持ちの持っていき方がわからなくて、出るのはため息と涙だけ。

この日は、泣いて、泣いて泣き疲れて。
いつの間にか朝になっていた。