「匠のバカ!」



無性に腹が立って、匠の手を振り払ってそのままバスルームへと向かう。



「おい、夏実ー?」



ノーテンキな匠があたしを呼ぶ声がきこえてくるけど、そんなのは無視。



「こっちは本当になにをどうしたらいいかわからないのに.......」



感情の整理が全く追いつかない。
匠は匠で鈍感だから、思わせぶりなことばかりしてくるし。
でも、匠には忘れられない人がいるらしくて。
それがシオンという名前だということまではわかった。

さっき、竜崎さんから聞いた時は、そんなことないはずって思っていた。

でも、実際にネックレストップに刻まれた名前をみて、ショックだった。
匠のこと、なんでも知っているつもりでいて。
一番近い女の子は自分だと思い込んでて、恥ずかしかった。

なんだか、裏切られたような気もした。
あたしと匠はあくまで、付き合ってるフリでしかなくて。
裏切られたなんて、お門違いだってわかってる。



「もう、やだぁ.......」



恋って、なんでこんなに辛いんだろう。
恋って、楽しいことばかりだったらいいのに。