「30センチ低い子がいい」


「え……」



鏡に移る匠の顔が一瞬にして、真剣な顔になる。



「もう、ドライヤーいいだろ」



あたしの手からドライヤーを奪って、スイッチを切る。

ドライヤーの音が消え、バスルームに静けさが広がる。



「ど、どうしたの……急になんか真剣な顔しちゃって」



一瞬にして、変わった空気を元に戻すべく、慌てて言葉を繋げる。



「お前だって、なんであんなこと聞いた?」


「特に意味はないよ。ただ、気になっただけだよ」



ドキン、ドキン。
匠に聞こえちゃうんじゃないかってくらい、心臓の音がはやくなっているのが自分でもよくわかる。



「俺の言葉の意味は?」


「え……」



意味って、なに?
そんなこと、考えたくなんてないのに。
自分の頬に熱が集まっていく。



「顔、真っ赤だよ」


「や、やめてよ。あたし本当にそういう経験ないんだから!」



匠はのいつもの冗談だと思い込むことにして、あたしはバスルームから出る。



「そのうち、覚悟してろよ?」



後ろから聞こえたそんな声は聞こえないふりをした。