「なーに、柊に気づかれるのが1番いやなくせに」


「そりゃそうだけど、でもどうせそれを知ったところで柊はあたしだって知らないもん」


「さすがに名前聞いたらわかるだろ。そこまで記憶力なくねーよ」



たしかに、柊にあたしの名前をしってもらえれば気づいてくれるんだろう。

でも、できれば顔をみてすぐに気づいて欲しかった。
今更、そんなこと考えても無駄なんだけど。



「でもさ、柊には彼女がいるんだよ」


「わ、分かってるよ!そんなこと言われなくたって」



あの日からずっと考えてる。
2人が手を繋いで帰っていった残像がずっと脳裏に残ってる。

毎日ベッドの上で、そのことを思い出して涙が止まらなくなる。



「俺にしとけばいいのに」



泣きだしそうな顔でもしていたのだろう。
ぎゅっと匠に抱きしめられる。



「慰めなくてもいいよ……」


「慰めてなんかいねーよ。お前、俺と一緒にいてなにも思わねーの?」



抱きしめている腕を離して、あたしの顔をのぞき込む。