「それに、覚えてなかった。柊くん」


「……あぁ、あれは多分覚えてないとかじゃない」


「……え?」



明らかに覚えてなかった柊くんを目の当たりにしてるのに、匠は何を言ってるのだろう。



「きっと、忘れたんだよ」


「それを覚えてなかったっていうんじゃ?」


「違う。無理やり」


「……無理やり?」



匠の言う意味が全然ピンとこなくて、首を傾げる。



「彼女がいるから。彼女に悪いから。なっちゃんって言う女の子の顔を思い出さないようにしたんだよ」


「そんな必要ある……?」



いくら、彼女ができたからって。
彼女のことが大好きだからって。

あたしは、あたしを覚えていてほしかった。
たとえ、あたしが彼女になれなくても、あの頃いつも一緒にいたあたしのことを忘れて欲しくなんてなかった。



「付き合いだした頃かな。部屋に飾ってあったお前との写真を見て陽葵が激怒したんだって」


「……え?」



激怒したってことよりも、あたしとの写真を飾ってあったことに反応してしまう。



「あいつはあいつなりに夏実とのこと大事にしてたから。悪く思わないで欲しい」



あたしに向かって頭を下げる匠に、匠も匠なりに柊のことを大事に思ってるんだなってかんじた。



「思い出してもらうから大丈夫」



何度も会っていれば、おもいだすはず。
あたしはその日がくることをこの日から楽しみにして、毎日部活に顔をだすようになった。



「ま、頭んなか俺でいっぱいにしてやるけど」



そんな匠の言葉はきにしないようにして。