「……あ」



すれ違いざまに見えたスラッと通った鼻筋に、目元ホクロ。
そんな横顔にあたしの心臓はあの頃と変わらず、反応をする。

でも、声なんかかけられずに、彼の背中をただ見つめる。



「……柊(しゅう)くん」



あたしは、この人が行くであろう高校に進むためにここに帰ってきたのだ。

五十嵐 柊(いがらし しゅう)
あたしがずっと好きな男の子。

小学生の頃から小学校のチームで野球をやっていて。
地元に野球の強豪校があるから、そこに絶対進むはずだから。
どうしても、あたしは柊くんと同じ高校に進みたかった。
そして、またあの頃のようにここからいっしよに学校に行きたかった。

小学校に入学してから、あたしと柊くんと、そしてもう1人ここに住む同じ年の匠(たくみ)。
3人で毎日一緒に学校に行っていた。

そんな日々がまた戻ってきたらいいのに。
親の仕事の事情で失われた、あたしの日常。
そのときから決めていたんだ。

絶対にまた戻ってくるって。



「次、会ったら話しかけるぞ」



あたしは強く決意をして、今度こそオートロックを解除して中にはいる。