「うん、あたし夏実になりたい」


「あたしも、詩音になりたい」



詩音と夏実が口々にそう口にする。



「わかった。お前らのことは俺が守るから」


「ダメだよ。匠が守るのは、しーちゃん。俺はなっちゃんを守るんだから」


「あぁ、そうだな。お互い大事なやつをちゃんと守ろう」



幼すぎて守れなかったあの頃とは違う。
いまは守ることができるんだ。



「心配すんなよ、俺がちゃんと守るから」



詩音の頭をぽんぽんっと撫でる。



「なんか.......知ってるかも、この感じ」


「知ってる?」


「家族の感じ。あたしがいて、夏実がいて、お母さんとお父さんがいて.......なんか知ってる」



思い出しかけているのかもしれない。
あの時、失った記憶を。



「ねぇ、匠。架くんは元気?」


「うわ、兄貴のこと覚えてんのかよ」



明らかに兄貴への好意を示していた幼い頃の記憶が戻るのではないかと内心不安になってしまう。



「思い出したの。あの頃のあたし達にとってだいぶ大人だった架くんがいたなって」



ニコニコと笑いながら詩音が言うもんだから不安はなくならない。