「柊、いま夏実が来てる」


「えーっとどっち?」



柊が、困惑の顔になる。



「なんだ、ちゃんと認識してんのか」



夏実に再会してから、詩音のことが見えないというような様子だったから、気にはなってた。



「ごめん、匠の好きなあの子を俺、傷つけたよな」


「あの子なんて呼ぶな。ちゃんと、名前で呼んでやれよ」


「でも、俺.......」



柊の眉が下がる。



「俺だってもう、あいつのことは詩音としか呼べねーよ」


「.......え?それってどっち」


「だーかーら、全部話したんだよ。だから、もうお前は好きなように呼べ」



俺の言葉に困惑の色が消え、パァァっと笑顔になっていく。

素直なやつだ。



「そっか、よかった。行こう、会いたい。なっちゃんに」



俺よりも先にエレベーターに乗り込んで「ほら、匠はやく」なんて言っている。



「変わり身はえーっての」



悪態つきながらも正直嬉しい。
やっと、柊の本当の笑顔が見れた気がするんだ。

夏実が詩音になって、俺らの前からいなくなったあの日から、1度も本当に笑ってない気がしていたから。