「なんで?」


「ん?」


「なんで、あの子よりあたしなんかを優先するの?」



色んなことが起きて、少し卑屈になってしまっている目の前の誰よりも好きな女。



「なんかじゃない。夏実だから、優先すんだよ」



俺はもう一度、抱きしめる。
さっきよりも、きつくぎゅっと。



「詩音さんのほうが大事なくせに」


「お前のことが好きだって言ってるだろ」


「そうは見えなかった!」



どうしても、詩音のことをどうしても放っておけなかった俺の事が気になるんだろう。



「夏実、俺がお前のこと詩音って呼びたいって言ったら怒る?」



再会してからずっと、夏実って呼んできたけど、やっぱり本当の名前でずっと呼びたかった。



「だから、どっちも嫌だって言ってるじゃない」


「ごめん。詩音って呼ばせて」



〝どっちも嫌だ〟という、コイツのお願いは聞いてあげることができない。

どうしても、俺が出会って好きになった。
本当の名前を読んで告げたかったから。



「詩音が好きだ」