「たまたまあのあと、意識を失ったあの子も、頭のうちつけがひどかったみたいで.......お母さんの言った夏実の記憶にすりかわってる。所々覚えてはいるみたいだけど、自分のことを夏実だとしか思ってないから.......匠には申し訳ないけど」



おじさんの話では、意識を失った詩音が目が覚めたとき、記憶がなくて、夏実の記憶をおばさんが植え付けたということだ。

柊のことをすきだったんだよ、っていうおばさんの話にそのまま柊のことが好きになってしまったらしい。



「いつか、思い出すよ.......いつか、なっちゃんも戻ってくるよ.......」



夏実になった詩音がそのまま、引っ越して、引っ越す日までずっと柊に好きだと言い続けていた。

俺と柊の間では、この言葉だけが願いだった。
中学生くらいまでは。



「お前、詩音か?」



中二のとき。
たまたま中学の職業体験でいった施設。
そこで車椅子で生活している、夏実だった詩音に会った。

ネームプレートに〝五月女詩音〟とかいていたから、夏実とは呼べなかった。

呼ぶ前にめっちゃ心の中で練習したことを覚えている。