「ねね、あたし桐生(きりゅう)こころ。仲良くしてよ!」



人懐っこい笑顔であたしに手をさしのべる。



「あ、うん。あたし五月女夏実(さおとめなつみ)。よろしくね」



そんな彼女の手にあたしの手を乗せて、握手をする。



「なんて呼べばいい?夏実だから、なっちゃんとか?」


「……っ」


「ん?どうかした?」




少し固まってしまったあたしを不思議そうに見る。



「夏実でいいだろ。別に」



ポンっとあたしの頭を撫でる。



「そう?じゃあ、夏実って呼ぼうっと。なんか、彼氏の匠と同じ呼び方って悪い気がしてね」


「……夏実の方がいいよ。こいつは」



匠はわかってる。
どうして、あたしがたった一つの呼び方だけでフリーズしてしまったのか。




──なっちゃん!



あの頃、そう呼んでくれていた柊くんの声。

昨日は一瞬すぎて、自分だときづいてもらえなかった。
また、そう呼んでもらえる日をずっと待っていた。

だけど、また会えたら。
そう呼ぶ声が聞こえるのだ。

この呼び方は、柊くん以外にさせなかった呼び方だ。