「ふふ、匠からこの前甲子園に出れることになったって聞いて、いてもたってもいられなくて」



そう微笑む女の人は、車椅子を自分で動かして、あたし達のほうへとやってくる。



「.......嘘だろ」



そう発したのは匠ではなく、柊くん。



「.......柊くん?」


「柊.......」



匠が困ったような表情になる。



「えっと.......?」



柊くんの様子を不思議そうにみて、匠の服の裾を引っ張る彼女。



「.......っ」



その様子を見て、気づいてしまった。
多分、彼女が詩音さんだと。



「詩音、ごめん。ちょっと、柊と話があるから.......あとで送ってくからここで待っててくれるかな?」


「あ、うん」



匠がポンっと、詩音さんの頭に手を乗せて、柊くんの腕を引っ張って歩いていく。



「.......っ」



誰の目にもあたしは映っていないような雰囲気で。
もう、その場に留まるなんてことできなかった。



「こころちゃん.......っ」



耐えきれなくなって、ホテルを出たあたしはすぐにこころちゃんに電話をかける。