「ちょっと外の空気吸いにいっただけだよ」


『だったら一言言って.......あ、いた』



スマホから聞こえる声と耳に届く声とが重なって聞こえて、目の前を見るとさっきの柊くんと同じようにこちらを見上げている匠の姿。



「なんだ、柊と一緒だったのか.......俺邪魔じゃん」



ふっと笑って、ポケットに手を突っ込む。



「そんなんじゃねーよ。たまたま通りかかったら、なっちゃんがここに座ってたんだよ」



ストンっととんで、地面に着地する柊くん。



「ほら、お前も早く来いよ」



匠があたしに向かって手を伸ばす。



「手なんかなくても、降りれるよ」



柊くんと違ってジャンプはできないけど、登った時と同じように降りていく。



「昔、家出してここに来たときもいつも匠が迎えに来てくれてたよね」



匠の姿をみて思い出した、あの頃の記憶。



「.......っ、お前思い出して?」


「え?そんなに忘れやすくないよ?あたし」


「そ、そうだな.......」



それだけの事なのに、どこか嬉しそうな匠を不思議に思いながら、その日は3人でマンションへと帰った。

匠への想いは整理できないままだったけど。