聞き間違いだろうか。
いま「彼女」になれと言われたような気がする。



「だから、彼女になれって言ってんの」


「いや、だからあたしには「ばか、マジメにとんな。フリだよフリ」



柊くんがいると言おうとした言葉を遮らる。



「え?フリ?」


「そ。フリ。俺もお前もいまは相手いないし問題ねーだろ?」


「そりゃ、いないけど……でも」



柊くんにそれが伝わってしまうのはなんだかいやだ。



「柊なら大丈夫。そーいう噂にまったく興味示さないから」


「……そうなの?」


「おうよ。中学んときとか、誰と誰が付き合ってるとかそういうの本当に知らなくてさ。アイツ野球のことしか頭にないの、本当に野球バカだよ」



おかしそうに笑いながら話す。
そんな表情は柊くんのことをだいすきと物語っているようなものだ。



「でも、フリなんてして意味あるの?」


「あるだろ。俺の女避けやってくれよ、てかやれよ」


「もう、なんていちいち命令なのよ」



なんでか突然始まった幼なじみとの同居と彼女のフリ。
なにかが起こりそうな高校生活は期待と不安に入り交じって幕を開けることになった。