「私、心療内科に通っているんです。」

 一瞬、動きが止まった橘さんが「そう」と呟くように言った。

「こんな話、この距離じゃないと話せないです。
 向かい合って話す勇気もないです。」

 橘さんは何も言わなかった。
 そりゃ困るよね。こんな打ち明け話。

 けれど、資料室であんなことがあったし、橘さんには話さなきゃいけないと思った。

「私、人が怖くて。
 対人恐怖症って言うらしいです。
 社会不安障害とも言うみたいですけど、私は対ヒトなので、対人恐怖症という方がしっくりきます。」

 震えそうな手をギュッと握りしめると隣から声がかけられた。

「真野、つらいならもう話さなくていい。」

 それは優しい温かい声で涙がこぼれそうになった。

「話させてください。
 お願いします。」

「真野が、いいのなら。」

 私は再び自分の忌まわしい症状を語り始めた。

「元々、人見知りで。
 人と話すことが苦手でした。
 病院の先生は頑張り過ぎちゃったんだよって言ってくださるんですけど。
 なんでしょうね。
 糸が切れちゃったんです。
 凧の糸が切れるみたいに。」

 そこから私は順番に話していった。