完全に拒絶していた。
 それでも近寄ろうとする俺へ向けた恐怖の色を浮かべる瞳。
 何かに怯えて震える体。

 ただごとではない雰囲気を感じても何も出来なかった。

 資料室の扉から通路の奥へ逃げるように出た俺は壁にもたれてずり落ちるようにしゃがみ込んだ。

 しばらく頭を抱えていると誰かが歩み寄る気配を感じて顔を上げた。

「手、出しちゃった?
 気が動転しているような真野さんが走り去って行ったけど。」

 飄々とした態度で、さも楽しいことが起きているという顔をした宮崎を見て激昂した。
 全てを悟ると跳ねるように立ち上がった。

 俺をからかいたかった、宮崎のタチが悪い悪戯。

「お前っ!ふざけんな!!」

 胸ぐらをつかむと力尽くで壁へと押しやった。

「馬鹿、落ち着け。
 橘みたいな馬鹿力に押さえられて殴られでもしたら無事じゃ済まされない。
 それが彼女の耳に入ってみろ。」

 最後の一文が俺の気持ちを余計に逆撫でして、壁を思いっきり蹴りたい衝動に駆られる。

 けれどそんなことすれば何もかもこいつの思うツボだ。
 深いため息を吐いて宮崎から手を離した。

 崩れるようにその場にしゃがみ込んだ宮崎がケホケホと軽く咳き込んでいる。

 白々しい演技しやがって。

 宮崎へ一瞥をくれてエレベーターに乗り込んだ。
 とにかくその場から立ち去りたかった。