終業間際。
仕事をしていると今まで関わりがなかったはずなのに、仕事中にバッチリと橘さんと目があってしまった。
「真野、手伝ってくれないか。
資料室で調べ物をしたい。」
「……はい。」
名指しのご指名なんて、みんなからの視線が痛い。
緊張から手に汗をかいてギュッと握りしめた。
橘さんは素知らぬ顔を決め込んでいて、エレベーターに乗っても会社の同僚という顔を崩さなかった。
そうしていると強面で近寄りがたいいつもの橘さんだ。
地下に着くと橘さんは率先して台車引いて資料室の扉を開けた。
「あの、無理されてるんじゃないですか?」
「なんだ。急に。」
必要な資料を探していた橘さんがまだ同僚の先輩という顔で返事をした。
眠そうだなんて少しも気付かなかった。
宮崎さんの喉の違和感には気付けたのに。
だから私は重ねて質問をした。
「平均睡眠時間は何時間ですか?」
作業をしていた動きが一瞬止まって「大丈夫。週末に寝溜めしてる」と返ってきた。
橘さんはもしかしたら元々常に寝不足なのかもしれない。
だからそれを見せないように……。
健太さんには見せるのに。

