「おはようございます。」

 長いコールの後にやっと電話に出たみたいだ。
 それでも返答がない。

「橘さん?」

 やっぱり返答がない。

 私は悪戯心から6時ちょっと前に橘さんへ電話した。

 もちろん橘さんは6時に私へ、橘さんが電話をかける方だと思っているだろう。
 不意打ちを狙った確信的犯行。

 昨日の仕返しとばかりに私は自分から電話をかけた。

「ん…。真野?ん…。起きる。」

 ものすごく寝起きが悪いみたいだ。
 もにゃっとどころじゃない。

 なんだろう。
 寝起きの声ってこんなに色気漂うものだなんて知らなかった。

 少し掠れた甘い声が耳に張り付いて離れない。
 やめればいいのに、耳に携帯を当てたまま質問を向ける。

「起きました?」

「んん。や、まだ、ねむ……。
 ん、キス…して。したら、起きれ、る。」

 うわぁー。
 本当に起きてないの?これ。