病院から帰る帰り道、私は今朝のモーニングコールを思い出して頬を緩めた。


「おはよう。寝てた?」

 電話を通した橘さんの声は穏やかな低い声だった。
 顔が見えない会話は声だけに意識が向くせいか小さな変化にも気づいてドキドキする。

「私は起きてました。
 橘さんは寝起きですか?
 いつもより声が、もにゃっとしてます。」

「もにゃっと?してるか?
 俺が、そういう真野の声を聞くつもりだったのに。
 起きてたのならモーニングコールの意味、ないじゃないか。」

 不服そうな橘さんに笑う。
 だって電話へ出るのに先立って薬を飲まないわけにはいかない。

「モーニングコールありがとうございました。」

 意味がなかったかもしれないけど、これで気が済んだのなら、まぁヨシとしようと私は電話を切るつもりだった。

 それを橘さんが制止する。

「待てよ。つれないな。
 少しくらい話す時間はないのか?
 今から化粧を始めないと間に合わないって言うのなら切るけど。」

 時計を横目に見てみても、まだ6:03。

 橘さんの続けた、からかうような言葉に思わず吹いてしまった。